「何から手をつければ…」その悩み、”見える化”で解決します
30代、40代、50代で日々奮闘されている個人事業主・小規模事業者の皆様、こんにちは。yls合同会社です。
前回の記事では、生産性向上に取り組むことで得られる「時間創出」「コスト削減」「収益増加」「従業員満足度向上」という4つの大きなメリットについてお話ししました。(※[前回の記事リンクをここに挿入])
きっと多くの経営者の方が、「なるほど、メリットはよく分かった。うちも取り組むべきだ」と感じてくださったことと思います。
しかし同時に、「そうは言っても、毎日目の前の仕事に追われている。一体、何から手をつければいいんだ?」という、次なる壁にぶつかってはいないでしょうか。
その悩み、非常によく分かります。生産性向上という壮大な山を前に、どこから登り始めれば良いか分からず、結局「また今度」と後回しにしてしまう…。
その「最初の一歩」こそが、今回お話しする**「業務の見える化」**です。
なぜ、これが絶対的なスタートラインなのか。そして、忙しい経営者が挫折せずに行うための具体的なステップとは何か。この記事で、あなたの「忙しい」を解消する具体的なヒントを掴んでください。
なぜ「業務の見える化」が生産性向上の絶対的スタートラインなのか?
「業務の見える化」とは、一言でいえば「今、誰が、何を、どのように、どれくらいの時間でやっているか」を客観的に把握することです。なぜ、これがそれほど重要なのでしょうか。
理由1:問題の「真犯人」を特定できる
私たちはよく「忙しい」「時間がない」と言いますが、その原因は曖昧なままです。 例えば、「なんとなく請求書作業に時間がかかっている気がする」と感じているとします。しかし、実際に見える化してみると、問題は請求書作成そのものではなく、「請求元データを集める作業」や「過去の履歴を探す作業」に大半の時間を費やしていた、ということが判明します。
原因が違えば、打つ手も変わります。前者の感覚のままでは「もっと早く入力するぞ!」と気合を入れるだけですが、後者の事実が分かれば「データ収集の方法を変えよう」「履歴を検索しやすくしよう」という具体的な改善策が見えてきます。
「見える化」は、あなたの時間を奪っている「真犯人」を特定するための、唯一の手がかりなのです。
理由2:「感覚的な忙しさ」から「数値的な課題」へ転換できる
「Aさんはいつも忙しそうだ」「今月は残業が多かったな」といった「感覚」や「印象」で経営判断をしていないでしょうか。
「見える化」を行い、「Aさんは顧客対応に月50時間、事務作業に月30時間かかっている」「B業務でのミス修正に週3時間発生している」というように「数値」で把握できれば、話は変わります。
- 「事務作業のうち10時間をツールで自動化できないか?」
- 「週3時間のミスをゼロにすれば、年間144時間(3時間×4週×12ヶ月)の時間が生まれる。そのためにマニュアル整備に20時間投資しよう」
このように、感覚的な悩みを具体的な「数値的課題」に落とし込むことで、初めて冷静な経営判断(投資対効果の計算)が可能になります。
理由3:属人化を防ぎ、強固な組織への道筋をつける
「この仕事は、あの人しか分からない」 これは、個人事業主が人を雇い始めた時や、小規模事業者で最も多く発生する問題(=属人化)です。
もし、その担当者が急に休んだり、退職してしまったら…ビジネスが止まってしまいます。 「業務の見える化」は、その担当者の頭の中にあるノウハウや手順を、紙やデータに書き出す行為そのものです。
見える化された業務は、他の人への引き継ぎが容易になります。さらに、それを元に「誰がやっても同じ品質でできる」ように手順を整える(=標準化)ことも可能になります。 「見える化」は、あなた(社長)がいなくても会社が回る、強固な組織を作るための設計図作りなのです。
挫折しない!個人事業主・小規模事業者のための「業務の見える化」3ステップ
「重要性は分かった。でも、面倒くさそうだ…」 その通りです。「見える化」は地味で、少し面倒な作業です。だからこそ、完璧を目指さず、以下の3ステップでシンプルに始めましょう。
ステップ1:「洗い出す」- まずは全部、机の上に出してみる
家計簿をつける時、まず「何にお金を使ったか」をレシートで確認しますよね。それと同じです。まずは「どんな業務(作業)があるか」をすべて書き出します。
- 具体的な手法:
- 付箋: 一番おすすめです。1枚の付箋に1つの作業を書き、「顧客対応」「経理」「営業」など、ざっくりカテゴリー別に壁やホワイトボードに貼っていきます。移動やグルーピングが簡単です。
- マインドマップ: 思考を整理しながら広げていくのに向いています。
- シンプルなExcel/スプレッドシート: 「大分類」「中分類」「具体的作業」といった形でリスト化します。
- ポイントと失敗例:
- ポイント: 最初は「大きな業務(例:請求業務)」から書き出し、次にそれを「小さな作業(例:請求データ確認、請求書作成、押印、封入、発送)」へと分解していくと漏れが少なくなります。
- 失敗例: 最初から完璧な分類や詳細なリストを作ろうとすること。まずは「質より量」で、思いつくままに書き出すことが肝心です。
ステップ2:「分類する」- 業務に”住所”を与える
洗い出した業務(付箋の山)を、いくつかの軸で仕分けしていきます。これが「見える化」のハイライトです。
- 重要な分類軸1:「コア業務」 vs 「ノンコア業務」
- コア業務: 売上に直結する業務、お客様への価値提供そのもの(例:商品開発、コンサルティング、施術、デザイン制作、重要な営業活動)
- ノンコア業務: コア業務を支えるための業務(例:経理、総務、事務作業、移動、定型的な問い合わせ対応)
- 重要な分類軸2:「自分(社長)しかできない」 vs 「他(人・ツール)でもできる」
- これは特に個人事業主やプレイングマネージャーの社長にとって重要です。
- 「見積書作成」は本当にあなたしかできませんか? ある程度のパターンがあるなら、従業員やパートスタッフでもできるかもしれません。
- その他の分類軸:
- 「頻度」(毎日、毎週、毎月、不定期)
- 「発生場所」(社内、社外、PC上)
これらの軸で分類することで、「これは毎日発生するノンコア業務だから、真っ先に自動化を検討しよう」といった優先順位が見えてきます。
ステップ3:「記録する」- “どれだけ”かかっているか直視する
洗い出し、分類したら、最後は「どの業務に」「どれだけ」時間がかかっているかを計測します。これが現状把握の”答え”です。
- なぜ時間計測が必要か?
- 多くの人は「感覚」と「現実」に大きなズレがあります。「5分で終わる」と思っていたメール返信に、実際は15分かかっていることはザラです。この小さなズレの蓄積が、「原因不明の忙しさ」を生んでいます。
- 具体的な手法:
- タイムトラッキングツール: 「Toggl (トグル)」や「Clockify (クロッキファイ)」など、無料から使えるツールがたくさんあります。作業の開始時と終了時にボタンを押すだけで記録できます。
- 原始的な手書きメモ: ツールが面倒なら、手帳やノートに「9:00-9:30 メール対応」「9:30-11:00 提案書作成」とメモするだけでも十分です。
- ポイント:
- いきなり全業務を完璧に計測しようとすると挫折します。
- まずは「ノンコア業務の中でも、特に時間がかかっていそうなもの」や「コア業務のはずなのに、なぜか時間がかかりすぎているもの」に絞って、3日間~1週間だけテスト的に計測してみましょう。衝撃的な事実が見えてくるはずです。
「見える化」で見つかった”ムダ”を退治する4つの視点(ECRSの原則)
さて、業務リストと、そこにかかる時間が見えてきました。ここからが改善の本番です。 改善には「ECRS(イクルス)」と呼ばれる、有名な4つの視点があります。
【視点1】やめる(Eliminate):その業務、本当に必要ですか?
最も効果が大きいのが「やめる」ことです。 「長年の慣習で続けているだけの報告書」「誰も見ていない日報」「無駄な会議」…。 「この業務をやめたら、誰が、具体的にどう困るか?」を自問し、困らないのであれば勇気を持って廃止しましょう。
【視点2】まとめる(Combine):一緒に、またはまとめてできませんか?
バラバラに行っている作業をまとめられないか考えます。
- 例:郵便局への発送を1日2回行っているなら、1回にまとめる。
- 例:複数のExcelファイルで行っている進捗管理を、1つのツールにまとめる。
【視点3】入れ替える(Rearrange):順序を変えたら楽になりませんか?
作業の順番を入れ替えるだけで、効率が上がることがあります。
- 例:午前中に集中力が必要なコア業務(提案書作成など)を行い、午後にノンコア業務(単純な事務作業)を回す。
【視点4】簡単にする(Simplify):もっとシンプルにできませんか?
これがITツール活用の出番です。
- 例:手書きだった伝票を、会計ソフトの入力に変える。
- 例:複雑な承認フローを、チャットツールの確認で済ませる。
小規模事業者の場合、まずは**「やめる」こと、そして「簡単にする(=ツール活用)」**ことから考えるのが、最も即効性があり効果的です。
「見える化」がツール導入の失敗を防ぐ
ここで重要なことをお伝えします。「見える化」は、ITツール導入の失敗を防ぐためにも不可欠です。
よくある失敗が、「あのツールが便利そうだ」「流行っているから」という理由だけで導入してしまうケースです。 その結果、「自社の業務フローに合わなかった」「機能が多すぎて使いこなせない」「導入したはいいが、かえって手間が増えた」という事態に陥ります。
「見える化」を先に行い、「どの業務」の「どの部分」に「どれだけ」時間がかかっているかを特定できていれば、 「A業務のデータ集計に月10時間かかっている。ここを自動化できるツールが欲しい」 というように、必要な機能が明確になります。
「見える化」は、数あるツールの中から自社に最適なものを選ぶための”羅針盤”の役割を果たしてくれるのです。
未来の「時間」を生み出すために、まずは「今」を記録しよう
「業務の見える化」は、正直に言って、最初は少し面倒な作業です。今すぐに売上が上がるわけでもありません。
しかし、これは、あなたのビジネスの「健康診断」であり、未来の「時間」を生み出すための、最も確実な「投資」です。
現状を知らずして、正しい改善はあり得ません。 「忙しい」という感覚論から脱却し、「どの作業に〇時間かかっている」という事実に基づいた一手を打つこと。それこそが、生産性向上の確実な第一歩です。
この記事を読んだら、まずは今日1日、あなたが「何に時間を使ったか」をメモ帳に書き出すことから始めてみませんか? その小さな記録が、あなたのビジネスを次のステージへ進める、大きな推進力となるはずです。

