この記事の3つのポイント
- 業務改善の個別相談は「提案を聞く場」ではなく、社長の頭の中にある困りごとを整理し、着手する順番を決める場である。
- 相談前に用意するのは資料一式ではなく、時間を取られた場面・止まりやすい業務・使っているツールの3点で十分に話は進む。
- 相談相手は「いきなりツール名が出てこないか」「経営者と現場の両方に話を聞こうとするか」で見極められる。
業務改善に取り組もうと考えたとき、多くの経営者が最後に立ち止まるのが「相談してみたいが、何を話せばいいのか分からない」という段階です。困っていることは山ほどあるのに、いざ説明しようとすると「忙しい」「人が足りない」という言葉にしかならない。準備不足で時間を無駄にしないだろうか、と迷ってしまう。
結論から言えば、資料をそろえてから相談する必要はありません。むしろ、整理できていない状態のまま持ち込んでもらったほうが、本当の詰まりどころが見えることが多いのです。この記事では、個別相談で実際に何を話すのか、当日までに用意しておくと話が早いことを、従業員30名以下の会社を想定して整理します。

業務改善の個別相談とは何をする場なのか
業務改善の個別相談とは、会社の中で起きている「時間が取られている場面」を洗い出し、どこから手を付けると効果が出やすいかという優先順位を、社長と外部の第三者が一緒に決める場である、と考えてください。改善策そのものを買う場ではなく、改善策を決める前の「地図を作る」時間だと捉えるほうが実態に近いといえます。
この違いは小さく見えて、相談の使い方を大きく左右します。「提案を聞く場」だと思って臨むと経営者側は受け身になりますが、「一緒に整理する場」だと考えていれば、社長は自分の言葉で困りごとを話し、どれが本当に痛いのかが浮かび上がってきます。相談の質は、相手の力量よりもこの前提の置き方で決まる部分が大きいのです。
もうひとつ押さえておきたいのは、相談の入口が「困っていること」であって「やりたいこと」ではない、という点です。「勤怠システムを入れたい」と手段から入ってしまうと、その手段が本当に効くのかを検証しないまま話が進みます。手段ではなく症状から話すほうが、結果的に近道になります。
そして、相談は一度で答えが出るものではありません。60分の相談で決まるのは「最初に手を付ける1〜2箇所」であって、会社全体の改善計画ではないのが普通です。全部を一度に決めようとしないほうが、かえって早く前に進みます。相談のタイミングそのものに迷っている方は、業務改善の相談はいつすべきか|中小企業が「まだ早い」と迷ったときの判断基準もあわせて読んでみてください。
相談前に用意しておくと話が早い5つのこと
準備は多ければよいというものではありません。分厚い資料を作るより、次の5つを頭の中で整理しておくほうが相談時間を有効に使えます。メモ用紙1枚で足りる分量です。
1. 直近1か月で「社長の時間が奪われた場面」を3つ
抽象的に「忙しい」と言うより、「見積の内容を確認するために現場に2回電話した」「月初の3日間は請求書のチェックで潰れた」といった具体的な場面を3つ思い出しておきます。これだけで、確認・判断・手戻りのどれが多いのか当たりが付きます。ここが曖昧だと、相談は一般論の交換に終わりがちです。
2. 「あの人がいないと止まる」業務の名前
属人化している業務は、社長の頭の中では意外とはっきりしています。経理のこの処理、この取引先とのやりとり、この機械の段取り。挙げられるだけ挙げておいてください。相談では、本当に代われないのか、手順が書かれていないだけなのかを切り分けます。多くは後者です。
3. いま使っているツールと、使われていないツール
会計ソフト、グループウェア、チャット、Excelの管理表。導入したものの使われていないものがあれば、それも挙げておいてください。「入れたのに定着しなかった」という経験は失敗談ではなく、その会社が何を受け入れられなかったかを示す情報であり、次の打ち手を外さない材料になります。
4. 人の配置と、誰が何を見ているか
組織図は不要です。「営業3人、事務2人、現場8人。事務のうち1人が請求と発注を両方見ている」程度の口頭説明で十分で、人数と役割分担が分かると、どの業務が一人に集中しているかが見えてきます。
5. かけられる時間と、おおよその予算感
ここを伏せたままだと、現実味のない話になりがちです。「社長が改善に使えるのは月2時間程度」「初期は月数万円まで」といった前提を先に共有するほうが、実行できる案に絞り込めます。費用の考え方を先に知りたい場合は、業務改善コンサルの費用はどう決まるか|中小企業が相談前に確認すべきことを参考にしてください。

個別相談当日はどう進むのか|60分の流れ
相談の中身が見えないと、申し込む前に不安が残ります。ここでは60分の個別相談がどう進むのかを時間配分とともに示します。会社によって差はありますが、大枠はこの形に収まることが多いといえます。
前半(およそ20分)|困っている場面を具体的に聞く
最初に扱うのは、社長が実際に時間を取られている場面です。大事なのは、きれいにまとめて話そうとしないこと。「気づくと自分が全部確認している」といった、まとまっていない状態のまま話すほうが実態が正確に伝わります。聞き手はその話を確認・判断・手戻り・属人化のどれに当たるかへ分類していきます。
中盤(およそ25分)|仕事の流れをその場で書き出す
次に、話に出た業務を「誰が→何を→次に誰へ」という流れで書き出します。受注から請求までを1本の線で描くと、途中で情報が2回入力されている、承認が社長のところで滞留している、といった詰まりが目に見える形になります。ここでツール名は出てきません。流れを整理する前にツールを選ぶと、流れの悪さをそのままシステムに写し取ることになるためです。
後半(およそ15分)|着手する順番を決める
最後に、書き出した詰まりどころに優先順位を付けます。判断の軸は「効果の大きさ」と「着手のしやすさ」の2つです。効果が大きくても現場の反発が強い施策を最初に持ってくると、そこで止まります。小さくても2週間で完了して現場が楽になる施策を先に置くほうが、次の改善が進みます。この順番の設計こそ、相談で持ち帰る一番の成果物です。
なお、業務改善そのものの進め方を体系的に知りたい場合は、中小企業の業務改善は何から始めるべきか|忙しい会社ほど最初に見るポイントで全体像をつかんでおくと、相談での議論がより深まります。

相談相手を見極める3つの判断基準
個別相談は、こちらが相談する場であると同時に、相手を見極める場でもあります。次の3点を意識して臨むと、その相手と組んで前に進めそうかを判断しやすくなります。
1つ目は、開始15分でツール名や商品名が出てこないかです。話を聞き終わる前に「それなら〇〇がおすすめです」と出てくる場合、売りたいものから逆算している可能性があります。ツールが不要という意味ではなく、仕事の流れを整理した結果として選ぶのか、先に決まっているのかという順番の問題です。
2つ目は、現場に話を聞く必要性に触れるかどうかです。社長から見えている景色と、現場が実際にやっていることの間には、たいてい差があります。社長の話だけで改善計画を描こうとする相手は、その差を織り込めません。経営者と現場の両方を見る姿勢があるかは、初回の相談でも十分に確認できます。
3つ目は、できないこと・やらないほうがいいことを言うかです。すべての要望に「できます」と答える相手より、「それは今の体制では続かないと思います」と言える相手のほうが信頼できます。中小企業の改善でつまずく原因は、能力ではなく、続けられない量を最初に抱えてしまうことにある場合が多いためです。
相談のあと、会社はどう動くのか
相談で優先順位が決まったあとの動き方は、大きく2通りです。ひとつは、決まった順番に沿って自社だけで進めるやり方。手順の書き出しや担当の入れ替えなど、外部の手を借りずに着手できる改善は実際に多くあります。
もうひとつは、最初の1〜2箇所だけ伴走してもらうやり方です。改善が止まる典型的な理由は、着手そのものではなく「決めた手順が2か月後に元へ戻る」ことにあります。定着するまでの数か月だけ外の目を入れておくと、この揺り戻しを抑えやすくなります。ある製造業では、手戻りの多い工程を洗い出して手順を整えた結果、月あたりの残業が半分近くまで下がった例もありました。ただし条件が整った場合の一例であり、同じ結果をお約束するものではありません。
いずれの道を選ぶにせよ、共通するのは「仕事の流れを整理してからツールを考える」という順番です。ITツールは整った流れを速くすることは得意ですが、乱れた流れを整えることはできません。この順番が、半年後に定着しているかどうかの分かれ目になります。
よくある質問
Q. 資料を用意していなくても相談できますか
できます。整理された資料より、「先週こんなことで時間を取られた」という具体的な場面のほうが役に立ちます。資料作りに数日かけるくらいなら、その時間で相談したほうが早いというのが実感です。
Q. 何から話せばいいか分からないのですが
「一番しんどい曜日はいつですか」「先週、自分でなくてもよかった仕事は何でしたか」といった質問から入りますので、答えていくうちに論点が見えてきます。話をまとめてから来る必要はありません。まとまっていないこと自体が、そのまま整理すべき対象です。
Q. 相談したら契約しなければいけませんか
そのようなことはありません。相談で得られる「どこから手を付けるか」という順番は、社内だけで実行しても価値があります。実際に、相談後しばらく自社で進めてから改めて声をかけていただくケースもあります。
Q. 社員を同席させたほうがいいですか
初回は社長おひとりで構いません。ただし改善を進める段階では現場の話を聞く場面が出てきます。経営者から見えている課題と現場が困っていることは一致しないことが多く、その差を確かめないまま進めると定着しにくくなるためです。
まずは相談で、次に動く順番を決める
業務改善で一番難しいのは、施策を実行することではなく、数ある困りごとの中から「どれから手を付けるか」を決めることです。社内だけで考えていると、目の前で燃えている問題から着手してしまい、根本の詰まりが残り続けます。
準備は、この記事で挙げた5つを頭に置いておく程度で十分です。売り込みを受ける場ではなく、頭の中を整理する場としてお使いください。個別相談では、御社の状況を伺ったうえで、まず何から着手すると効果が出やすいかを一緒に整理します。動き出す前に、順番だけでも決めておきませんか。

